今回読んだのは、8月に発売し、現在100万部を突破し話題になっている「君たちはどう生きるか」漫画版。
小説版は読んだことがないが、漫画はめちゃめちゃいい本だった。
100万部突破はつい先日のニュースだ。プレゼントや学校の一括購入が増えているせいだという。
『君たちはどういきるか』 あらすじ
1937年に吉野源三郎によって書かれた小説が原作。
中学生のコペル君とそのおじさんが物語の主要人物だ。
コペル君が体験する様々な事を、おじさんがノートにまとめ、それが社会でどのような意味を持つかを伝える。
- おじさんノート
・ものの見方について
・真実の経験について
・人間の結びつきについて
・人間であるからには
・偉大な人間とはどんな人か
・人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて
引用元:漫画「君たちはどう生きるか」原作:吉野源三郎 漫画:羽賀翔一 マガジンハウス
コペル君が後悔しているシーンから始まり、おじさんからの手紙が届くところから物語が始まっていく・・・
いま君は、大きな苦しみを感じている。なぜそれほど苦しまなければならないのか。それはね、コペル君、君が正しい道に向かおうとしているからなんだ。人間ってものの、あるべき姿を信じているからだ。
おじさんからの手紙
この本を一言で表すのはとても難しいが、
社会で生きる人間とはなんなのか、どうあるべきなのか?
という非常に倫理的・道徳的な本質的問いを私たちに投げかける本だ。
本を読み解くための予備知識「作者と時代背景」
本を読み解くために必要な情報は、
作者と書かれた時代背景である。
作者:吉野源三郎
・1899-1981年 東京都出身
・東京帝国大学卒業
・1937年「君たちはどういきるか」デビュー作
大学卒業後1925年、陸軍に入隊。
除隊後、社会主義系の団体事務所に出入り、1931年に治安維持法事件で逮捕される。
- 社会主義・・・資本主義の弊害に反対し、より平等で公正な社会を目指す思想。
- 治安維持法・・・国体変革・私有財産制の否定を目的とした運動を取り締まる法律。(要は反国家的な運動、共産や社会主義を取り締まるためのもの)
時代背景:出版された1937年の社会
世界的にみると1930年前後に世界大恐慌がおきる。
日本は、満州事変を経て1933年に国際連盟を脱退。
1937年から戦争に突入していく。
軍部主導の政治となり、帝国主義の色が濃かった。
軍国主義とは、簡単に言えば他国に侵略していく思想である。
そのため、共産主義・社会主義的思想は厳しく弾圧されていた。
ところで、みなさんは「菊と刀」という本を知っているだろうか?
日本人論の名著『菊と刀』要約・書評 | 日本の社会システムがわかる – マジPEACE。
この本は戦時中にアメリカの文化人類学者が日本文化を調査して解明を試みた日本文化論である。
「菊と刀」では、この時代の日本はこう切り取られている。
日本の政治家、大本営、軍人は次のように繰り返し述べた。「これは軍事の力比べではない。日本人の精神力信仰がアメリカ人の物質崇拝とぶつかり合っているのだ」
日本は、精神的な資源の重要性を力説するという点で完全に首尾一貫していた。それはアメリカが物的資源の規模にこだわるのと同じ事である。
引用元:「菊と刀」ベネディクト 訳:角田安正(光文社古典新訳文化)
つまり、この時代の日本は“精神力信仰”が価値観として主であったと言える。
物質的な資源にこだわる近年の日本人とは、価値観に違いがあると思う。
ただし、「頑張れば勝てる!」というような極端なことを言っているわけではない、
この時代には多くの人が精神的なものに価値を置いていたということが大事なのである。
そして、吉野源三郎はこのような時代を生きながら、軍国主義に進む日本を憂い、子供達に自由で進歩的な文化を伝えるための「日本少国民文庫」のうち1冊として企画したらしい。
ではなぜ今「君たちはどう生きるか」が大ヒットしているのだろうか?
「君たちはどう生きるか」大ヒットの理由考察
私は、物質的なものではなく、精神的なものに価値を置く人が増えたからではないか?と考えている。
それは、LINEや仮想通貨、ツイッター、Youtubeなど
精神的な豊かさが重視され始めていることからわかる。
物質的な豊かさが優っていた頃から日本は、精神的な豊かさが勝る社会になってきたのだ。
いや、もともと人間には精神的な豊かさが重要だったのだろう、そこは変わらない。
社会も精神的な豊かさを重視する時代になったのだ。
信用経済と言われる昨今、目に見えない信頼に価値を置くようになった。
そこで大事なことは、倫理感や道徳観だ。
炎上や不倫、ステマや失言、ブラック企業など、すぐに拡散されシェアされてしまう。
それと同様に感動や正しいことも拡散されてシェアされる。
常に私たちは、人間とはどうあるべきかを問いかけられる。
AIの発達も含めて、さらに人間の意味が問われるようになっていくだろう。
この過渡期の中で「君たちはどう生きるか」が光を浴びたのだ。
人としての美しさや正しさはいつの時代も共通する真理だ。
それを私たちは今、自分たちで常に考えて選択できる時代に生きている。
「君たちはどう生きるか」
が
「私たちはどう生きるか」
という時代にうつったのではないだろうか?
おじさんのノートを最後まで読んでくれれば、きっと君は自分を取り戻せる。
あらたな一歩を踏み出すことができる。
僕たち人間は、自分で自分を決定する力を持っているのだから。
引用元:漫画「君たちはどう生きるか」原作:吉野源三郎 漫画:羽賀翔一 マガジンハウス
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